real passion

この気持ちは、嘘ではない。

「…どうしたんだい?
 随分、深刻そうな顔をしているよ」
黙り込んだまま、こちらの顔を時折ちらちらと見てくるフォースに、苦笑しながら声をかける。
何か言いたいことが、と尋ねれば、案の定、是と返ってきた。
「ロージィは、俺のことがよく分かるんだな」
驚嘆したように言うフォースに、自分は軽く肩をすくめた。
あれだけ物言いた気にみてくる態度をとられれば、嫌がおうにも分かろうというものだが、
とりあえずそれは言わないでおく。
「全て分かるわけではないよ。
 私に言いたいことがあるのなら、いつでも聞くとも」
笑顔で軽く覗き込むようにすれば、相手の顔が軽く赤くなっているのが容易に見て取れる。
彼が手招きをして、自分の膝に、私を横向きに座らせた。
そのまま、こちらの腰を抱え込むように抱きしめ、肩口にすがりつくように額を当てる。
逆らわずに、やや腰をひねると、軽く抱きしめ返した。
当初、フォースが、己のことを好きだと、そういわれたときには多少吃驚はした。
同性同士の恋愛など、性別の複雑なものの多いこの街では決して珍しいことでもないし、
私自身にも、嫌悪感やそれに類するものは決して持っていないが。
しかし、自分はもともと、特に同性を好む性癖だ、というわけではない。
…同性でも別に違和感や、嫌悪感をかんじることは無いけれど。
むしろ、他人と触れ合い…その後、嫌われるのが恐ろしくて、なるべくそういうことを避けてきた。
「…私といることで、誰かに何か言われたのかな?」
とはいえども、中には、同性同士の恋愛を、忌諱するものや、嫌悪するものもいるだろう。
見当をつけてたずねてみたところ、今度の応えはややためらいながらも、否、だった。
「ロージィは、優しいな。
 …誰にでも、優しい。
 俺は、そんなロージィが好きだけど、時々不安になるんだ」
肩口に額を当てたまま、つぶやくようにフォースが言う。
自分は、軽く目を眇めた。
「不安?
 何を不安に?」
問えば、彼の、腰を抱く腕に軽く力が篭った。
「…ロージィは、俺のことが好きか?」
「好きだとも」
即答する。
嘘ではない。
「本当に?」
あまりに私の言葉が早く、端的すぎて、逆に不審なのか。
肩から額を離すと、彼は私の目を覗き込んできた。
此方も、見つめ返し、好きだと、もう一度告げる。
「君が誰に何を言われたのかは、私には分からない。
 けれど、ここにいる私が、私の言葉が、信じられないのかい?」
「そんなことは無い!
 その…そう、不安になっただけなんだ。
 俺は、ロージィを愛している。
 でも」
愛してるからこそ、不安になる…言葉の最後は、消え入りそうに小さかった。
あいしてる、その言葉が、私の心の表を滑った。
愛されることは、嫌いではない。
愛することも嫌いではない。
ただ。
「身も心も重なっていないと、不安になる?」
彼の『好き』と、私の『好き』には、おそらく深い隔たりがある。
彼のそれには、独占的なものが強い。
俯く相手の顎をそっと持ち上げ、相手のサングラスを奪い取る。
バードキスをしながら言う私に、フォースが頬を赤らめた。
思わず、軽い笑いが漏れた。
「…嫌われているのかと思って、心配した」
他人の心に残ること、そしてそれが怨嗟である、それ以上に恐ろしいものは無い。
どれだけ存在を薄くしていたとしても、どうせ相手に印象を残すのだから、
それなら、嫌悪による感情よりは、好意による感情の方がいい。
嫌悪は、それと気づかぬ後まで深く根を残すが、好意なら、風のように消えさえる。
どれほど強く吹いたとしても、そこに吹いたという痕跡のみで、風そのものは決して残らない。
「ロージィを嫌いになんかならない…なれない。
 ロージィ、好きだ、とても、好きだ。
 平凡な言葉でしか伝えられないけれど、
 愛してる」
彼のその盲目的な追従すら感じられる愛は、本当に『愛』なのか。
恋情の形をとった、別の何かではないか。
一瞬、疑問がよぎるが、深い口づけに気をとられ、その問いかけはすぐ脳裏から消えた。
何度か繰り返し、好きだ、愛してると囁きながら、まるですがるようにキスをし、
抱きしめてくる相手に、此方も抱きしめる腕に力をこめる。

「私も、あいしてるよ」

口付けの合間に、私もそっと囁いた。

嘘では、ない。

***
バードキス…軽く唇のみを触れ合わせるキスのこと。
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by usanosuk | 2007-11-02 22:19 | 小ネタ