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golden apple

「こんばんは、梟の侯爵」
ざらりとした声に、アンドラスがゆっくり振り向く。
「…なんだぁあ、イーリスのばーちゃん…
 何の用だよぉお」
間延びした口調で、のんびりと答えるアンドラス。
イーリス、と呼ばれた老女は、ローブの下で、軽く肩を震わせる。
その顔は、フードに半ば隠され、見え辛いが、わずかに笑みを刻んでいた。
年齢の不明瞭な、しかし発音は明瞭な声が応える。
「それは此方の言葉だね。
 何をしているんだい?」
「雌豚を屠殺ってただけだよぉお。
 キーキーうるさい豚は黙らすに限るねぇえぇ」
ぴちゃり、と、彼が手に持った肉塊から、地面に血が落ちる。
元が何か、全く分からないほどに崩壊した肉と血の塊を見て、
イーリスがふぅ、と息を吐いて首を軽く振った。
「ここは虐殺禁止区域だそうだよ?」
それに、その子は被虐種じゃないだろう、続けるイーリスに、
不快そうにアンドラスが眉を顰める。
手に持った肉を、己の背後の虐殺禁止区域を示す看板に叩きつけた。
「雌豚はどれも一緒だよぅう。
 せいぜい楽しませる程度にしか役に立たないんだから、楽しんでただけだよぉお」
 なんだよ、責めるのかよぉお」
「詰問せざるをえないことをするからだろう?
 してはいけないといわれていることをしていたら、注意するしかないじゃないか」
軽く笑うような、軽い…しかし、どこか耳障りな声にあわせているかのように、
夜風にイーリスのローブが、ふわふわと生き物じみた動きではためく。
その非現実的な動きに、やや気後れしたように、アンドラスが少し抑え気味に言い返した。
「ばーちゃんだって、皆を混乱させて楽しんでるくせに」
そのりんご、言って、アンドラスがイーリスがその手に持ってる、
夜目にも明るく輝く金のりんごを指す。
「りんごを送ったじゃんー…」
こんどこそ、はっきりとそれと分かる程度にイーリスが笑った。
りんごをもてあそぶ手付きが、奇妙になまめかしい。
「私は、してはいけないことはしないよ。
 あれは彼女らが勝手に争っただけさ。
 ”最も美しい女神”が、美を競うような愚かしいことをするはずないというのにね」
言葉の端に、哄笑が混じる。
「私は、何も、してないよ」
”NOTHING(何も)”をことさらに強調するイーリスに、アンドラスの顔に、一瞬怒りが走った。
「うるさい、黙れババァ!」
「黙れババァだなんて、そんな下卑た言葉遣いをするもんじゃないよ、梟の侯爵」
「…そりゃぁ失礼しました、おねーさま」
「おや、坊やには私が”お姉さん”に見えるのか」
ローブの影から、口が笑みの形で覗く。
ざらりとした声も、そのくせさらりとした口調も、夜に溶けるように靡くローブも、
手に持ったりんごに映し出される、フードの隙間から覗くイーリスの顔に刻まれた
しわの一本ですら憎い、とばかりににらむアンドラスが愉快らしい。
「黙れっ!」
ついに、アンドラスが、怒りのままに魔法を放った。
イーリスは、避けない。
魔法の矢が、イーリスに当たる瞬間、フードが風に煽られ、顔が一瞬明るく見えた。
それは、白い肌に青い瞳の、美しい人形じみた、
「!?」
とっさに魔法をキャンセルすることができず、そのまま、矢がローブに突き刺さった。
呆然と、倒れた人影を眺めるアンドラス。
「嘘だ…ベル?」
そんなわけは無い、明らかに、アレはイーリスの変化だ。
頭ではそう理解してはいても、目に付き刺さった光景が離れない。
周囲に、血臭の代わりに広がるりんごの匂いに、脳天がしびれるような気持ちになってくる。
「…ソラ!」
振り切るように、アンドラスは、己の猟犬を呼び出した。
鋭角から染み出るように、漆黒の毛並みの”犬”が湧き出る。
アンドラスは、その背にまたがり、号令をかけた。
「行…」
「気をつけてお帰り。
 夜道は暗くて危険だから」
言い終わるか終わらないか。
まさに真後ろからかけられた、イーリスの声に、言葉尻を飲み込み、とっさに後ろを振り返る。
が、そこには、誰も、何もなかった。
倒れたはずのイーリスも、先ほど自分が解体したあの死体すらも。
とっさに、猟犬を置いて飛び上がり、空から周囲を見回す。
先ほど自分がいたはずの場所から離れた遥か先に、先ほど自分が屠ったはずの少女が、
何事もなかったかのように携帯で喋りながら歩いているのを見つけ。
一瞬身震いが走るのを無理に押し殺し、アンドラスは猟犬に改めてまたがりなおすと、
再度号令をかけた。

「イーリス」
静かにかけられた声に、イーリスが振り向かないまま、応える。
「ルールは守らなきゃ面白くない、ねぇ、そうだろう、ナイキー」
「…ルールなんて守ってたら、勝てない」
楽しそうなイーリスの口調に、困惑したようにナイキーと呼ばれた女神が答える。
「ああ、そうだね、あんたはそうだったね」
なんて楽しいんだろうねぇ、とイーリスが手に持った黄金のりんごを軽く中空に放り投げた。
それは、重力を無視して空中に浮いたまま、くるくるとその場で回転しながら留まり。

そして、全てが闇の中へ、消えた。

***
不和の女神と不和の侯爵、勝利の女神。
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by usanosuk | 2007-10-27 20:58 | 小ネタ

you're only but not lonely

大佐がネヴってるのは割といつものことだと思っていたけれど、
その日は少し、様子が違っていた。

「…大佐。
 それ、何処まで本気ですか」
片眉をあげて聞き返すドルヒに、大佐が軽く首を傾げた。
「…何処まで、とは?」
机の上で軽く指を組み合わせる大佐に向き合うように、ドルヒが机に手を突く。
「『私は常にひとりだ』、といいましたよね。
 どういう意味ですか」
「…その言葉のとおりだよ。
 君たちは、いつも仲が良いよね。
 良い事だ」
ふわ、と「いつもの様に」笑うネヴローズ大佐に、ドルヒが抑えた声をだす。
「…つまり、大佐は、オレたちと違って、常に、自分がひとりだと、
 そういうことを言いたいわけですか」
「…それ以外に意味があるのかな?」
どちらも、表情だけは普段どおり。
…表情だけは。
大佐はともかく、ドルヒがそれとわかる程度に苛立ちを表してるのは、珍しい。
慌てて、ドルヒの袖を引き、止めるよう促すが、じろりとにらまれ、思わず俺は手を離した。
…本気でにらむと、こいつは結構怖い。
「それ、本気でいってるなら殴りますよ」
「おっと、君に殴られるのは勘弁して欲しいな。
 …どうして、だい?」
軽く肩をすくめ、聞き返す大佐に、ドルヒがまっすぐに彼を見た。
「我々は、大佐の部下です。
 我々が戦場で行動できるのは、大佐が命令を下すからです。
 我々は、大佐に命を預けているといっても過言ではない」
一気に言い募り、口を開こうとした大佐を遮って(これもまた珍しい)更に続ける。
「大佐が一人なのは、確かです。
 命令を下す人物は、二人も要らない。
 ですが、独りじゃない。
 …言い換えて、もう一度聞きます。
 答えてください。
 大佐は、常に孤独を感じてるんですか?」
そこまでいうと、ドルヒはぴたりと口を閉じた。
大佐の視線が、珍しく一瞬困ったように彷徨い。
暫くの沈黙の後、ようやく吐き出すように、ポツリとこぼした。
「…君たちは、私に、『命』を預けている、といったね。
 私は、預けられたものに対して、どうすれば良い?」
「『信頼』を返してください。
 大佐の信頼は、我々が預かります」
ドルヒの言葉に、一瞬大佐が考え込む。
「…信頼…そうか、いや、信頼…
 ああ、そうだね、そうだった。
 『我々は、チームである、常に仲間が共にいる』
 我々の標語だったね」
壁にかけてある、標語を目の端に入れながら、大佐がドルヒをみる。
ドルヒが、軽く肩をすくめた。
「大佐も、チームの一人、でしょう?
 頭がいるから、手足が動ける」
「ふふふ、私は、簡単なことを忘れていたようだよ。
 すまなかったね」
「謝罪されても困ります」
大佐が悪いことをしたとは思ってません、続けるドルヒに、珍しい表情…
「いつもの笑顔」ではない笑顔を、大佐がみせた。
「ああ、そうだね、すまない、いや、違うな。
 感謝する。
 気づかせてくれて、ありがとう。
 …オンリーと、ロンリーは違う。
 でもね、私が、君たちを羨ましいと思うのは、本当だよ」
「…ありがとうございます」
大佐が、俺とドルヒを、交互に見ながら微笑むのに、
三度珍しく、面食らったようにドルヒが応えた。

***
ざうざうはみた! 珍表情大連発事件の巻
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by usanosuk | 2007-10-24 03:40 | 小ネタ

小咄

能力の制御力が弱いのだと聞いた。

切れない刃物は危険だというが、切れすぎる刃物は鞘すら切り裂く、ということなのだろう。
感情が高ぶると、余計に制御できなくなるらしく、
なるべく感情の揺れ幅を抑えようとしている様子は伺えるのだが、
生来激昂しやすい性なのだろう、その努力はあまり実っていないようだ。
とはいえ、元の顔立ちが美形なのと、白子独特の雰囲気があいまって、
一見してわりと落ち着きがあるようにみえる所為か、
知らない人…特に女性から見れば冷静で格好良い、となるらしい。
格好良い、はともかく、冷静ってなんだっけ、と首をかしげたのは、オレだけじゃない、絶対。
少なくとも、冷静な奴は、割れた玻璃杯を素手で拾おうとして、指先を切ったりは、しない。

「…壊すなとはいえないけどさ。
 せめて、落とすな」
「…すまない…」

見事に粉々に砕け散った杯を直すべく、オレは右手に「力」を集中させた。

**
和風ぱられるでコネタひとつ、破壊魔とりぺあますたー。
玻璃杯=ガラスのコップのこと。

関連記事:和風ぱられる http://usanosuk.exblog.jp/6420157/
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by usanosuk | 2007-10-22 03:23 | 小ネタ